イギリスの自動車雑誌『AUTOCAR』やアメリカの『エドマンド・マガジン』などでも度々取り上げられ、時代を超えて語り継がれてきた「自動車史上最も美しい車」の一つジャガーE-TYPE。42年という長い眠りから覚めるように、車体の美しさはそのままに最新EV性能を携えて登場し、一躍話題の車となったジャガーE-TYPE ZERO。2018年5月18日、サセックス公爵ヘンリー王子とメーガン妃のご成婚レセプションパーティの会場にて注目を集めたオープンカーこそ、この最新型クラッシックカーです。
今回はそんな現代に蘇ったジャガーE-TYPE ZEROに焦点を当てていきたいと思います。
従来のジャガーE-TYPEの特徴
C-TYPE、D-TYPEに続いてレーシングカーという位置づけとなるE-TYPEの起源は、戦後から15年経った頃までさかのぼります。1960年のル・マン24時間耐久レースでE-TYPEのプロトタイプとなる車両が出場しました。この時フェラーリ勢が圧倒的にレースを支配していた中で最高3位を走行したことで話題となり、一般市民の間でも一躍時の車となりました。
その後1961年~1975年に一般に向けて生産されることになり、コンバーチブルタイプ(屋根が開閉できる)とクーペのどちらかを選べる仕様となっていました。ノーズが車体の半分近くを占めるほど長く、それでいて運転デッキが小さく、レーシングカーではあり得ないほど狭いトレッド(タイヤとタイヤの距離感)が特徴的。全体のデザインとしては、空力学を応用した飛行船のような趣を持っているのが、ジャガーE-TYPEが時代を超えて美しいとされる所以ではないでしょうか。当時としては憧れの時速240㎞にまで達することができたのも、イギリス国民のみならずアメリカへ市場を広げられた大きなポイントです。E-TYPEは14年の歴史の中で3回ほど大きくモデルチェンジをしましたが、その間に3.8ℓの排気量は4.2ℓ、5.3ℓと徐々に引き上げられていきました。
1971年以降に登場した「シリーズ3」は大きな排気量に耐えられるボディとアメリカの安全基準を満たすことが主な改良目的だったため、本来のE-TYPEが持つ控えめで優美な流線型を覆して貫禄のあるデザインへと変化してしまったことから、徐々にE-TYPEとしての存在意義が問われていくことになったのです。
新たなE-TYPE ZEROが踏襲したポイント
しかし、今回EVとして蘇ったジャガーE-TYPE ZEROは今なお根強い人気を誇るシンプルなフォルムの1968年式「シリーズ1½」で、コンバーチブル型のロードスターを再現したものです。
「シリーズ1」との違いとして挙げられる、車体の流れと一体化していたヘッドライトのガラスカバーが取り除かれ、最新のLEDライトでオリジナルが持つ古典的な要素を補完しています。
驚くべきは従来のE-TYPEのエンジンとトランスミッションと同重量・同寸の電動パワートレインを載せているところ。そうすることでボディもサスペンションもそのままにEVとして生まれ変わることに成功しただけではなく、既にジャガーE-TYPEを保有している人が中身だけを取り替えることも可能にしてしまうのです。
40kWhのリチウムイオンバッテリーで航続距離は約270㎞、家庭用電源からは6~7時間でフル充電が完了します。しかもその性能を備えつつ、直列6気筒エンジンと同じ大きさ・重量に仕上げてあるというところが職人技の極みですね。時速100㎞までの最速到達ポイントは5.5秒で、従来のE-TYPEよりも約1秒の短縮が見込まれています。
クラッシックカーが電気自動車として生まれ変わった意義とは?
世界で最も美しいと評されるジャガーE-TYPEがEVとして生まれ変わった背景には、富裕層が次々に環境性能を重視した車選びをする考え方の変化が大きく関係しています。ジャガー保有者も例外ではなく、電気駆動でも実用的なデザインではないハイエンドなものを…と所望し、乗り換えが相次いでいたところです。
特に1億円クラスでもテスラ社のモデルSの売れ行きが好調なところを見ると、車両価格に糸目はつけない考え方が垣間見えます。そういった顧客の流れに歯止めをかけるべく、最高の車体で最高のEVを完成させたジャガーの目論見が見事に的中し、今後も幻の名車が新しい電気駆動となって現代にレストアされるのが一般的な流れとなってくるのではないでしょうか。
まとめ
オリジナルのジャガーE-TYPEと同様のデザイン性と走りを目指してレストアされたE-TYPE ZERO。
特徴的な車体に搭載されたダイナミックなエンジンと実用的なバッテリーのおかげで、家庭用電源でもしっかりと充電できる機能性も高評価です。生産が中止された1975年当時、アメリカの安全基準を満たすために外観と内容がチグハグになって撤退を余儀なくされた雪辱を晴らすべく、電気駆動のクラッシックカーという新たな境地を開いたことになります。
車両価格は約5,200万円とかなり高価なEVではありますが、従来のE-TYPEオーナー向けに電動パワートレインへの変更も可能とする万全のアフターケアを打ち出し、顧客の満足度を高め、他メーカーへの乗り換えの歯止めとなる予感です。実際の納入は2020年の夏を目途に、まずは少量生産からスタートしているところ。このように、ジャガーE-TYPE ZEROがクラッシックカーのレストアを牽引する存在になるかもしれません。