自動車保険に限らず、保険金は無条件に支払われるものではありません。
もし、どんなシチュエーションであっても保険金が支払われるのであれば、サスペンス物のドラマや小説のような偽装工作なんていりませんよね。
どのような保険であっても、支払い条件が存在し、例えば意図的に起こした事故の場合、保険の契約は無効になります。

では親族間で自動車事故が起こった場合、どういった扱いになるのでしょうか?通常の保険金の支払仮定と異なる点はあるのでしょうか?
今回は親族間の自動車事故について、保険金の話などを交えながら紹介いたします。

自賠責保険の場合

自動車保険は大別して、任意保険と自賠責保険(強制保険)に分かれます。かなりややこしいのですが、自賠責保険だと保険金は受け取れます。

古い話ですが、1972年に最高裁が自賠責保険による家族への保険金の受け取りを言い渡した例があります。こちらは夫が運転中に事故を起こしてしまい、妻を怪我させてしまった事例でした。

自賠責保険は、「他人」の被害に対して支払われるものです。この判例により、1親等であっても事故なら支払われることが分かりました。

判例の推移

前述の通り、1972年に最高裁は自賠責保険の補償を加害者が夫であり被害者が妻である場合でも認めました。それまでは統一した判決がなかったのですが、これ以降は一貫しています。

夫婦は、基本的に家計を同一としています。つまり、保険金がそのまま自分の懐に入るといった状態に近いのですが、判決は保険を受け取れるとしています。

任意保険だと下りない?

親・子・配偶者

家族の間で起こった事故を「家族間事故」といいますが、家族間事故では任意保険から保険金が下りるかどうか疑問ですよね。

自動車保険とは、基本的に「他人」に損害や被害を与えてしまった場合のために備えるためのものです。問題は、「他人」が誰を指すかですが、保険の契約文に、「他人(親、子、配偶者を除く)」といった記載が確認できるかと思います。

任意保険では、自分の両親、妻あるいは夫、子どもとの事故だと、保険金は下りない可能性が高いと思っていいでしょう。同一生計でない親・子・配偶者なら下りそうなものですが、それでもまず下りません。

兄弟・親戚・祖父・祖母・おじ・おば

親・子・配偶者以外なら、任意保険でも故意性が認められない限り保険金は下りる場合があります。ピンとは来ないかも知れませんが、法定相続人の第3順位以降なら、任意保険における「他人」の範疇であると覚えてください。

自賠責保険だと保険金が下りる理由

自賠責保険の成立意義は、交通事故の加害者を経済的にサポートすることです。自賠責保険の正式名称は、「自動車損害賠償責任保険」といいますが、意味としては「事故を起こした人物には損害賠償の責任があり、それに対する補填をします」とも読めるでしょう。

自賠責は自動車登録済の車を保険に強制加入させることにより、事故を起こしてしまった場合の経済的負担を軽減するためのものと言えます。自賠責保険はあくまでも対人に対する補償のため、被害者と加害者の続柄は俎上にのぼりません。

家族間事故は保険金詐欺を疑われやすい?

生命保険金目当てで親族を殺害するといった痛ましい事件はニュースでも聞くことがありますが、自動車事故でそのようなケースはあまりありません。
理由の一つとして、生命保険の場合はそれまで加入者が支払った以上の金額を受取人が獲得することができますが、自動車保険はあくまでも補填にしかなりません。

そのため故意に自動車事故を起こして、自動車保険で入院費用に対する保険金をせしめようとする人は少ないと思われます。
そういった人は自動車保険ではなく、傷害保険などの支払い額のより高い保険に加入するでしょう。

これらの経緯から、家族間事故は自動車保険の保険金詐欺を疑われる可能性はそこまで高くありません。

親・子・配偶者間でも任意保険の対人賠償が請求できる?

「記名被保険者の承諾を得た使用者」という概念があります。一般的に任意保険の補償対象は「記名被保険者」(加入者)に限られますが、その方が誰かに運転を代行させていた場合、「記名被保険者の承諾を得た使用者」となります。

例えば任意保険の加入者が友人に車を貸しており、その友人が加入者の子どもを事故で傷つけてしまったとします。
車の任意保険は自動車ごとに適用されるため、その自動車の所有者の子が被害者の場合、保険金は支払われないように思えますよね。
しかし、「運転していた友人」と「加入者の子」は親子ではありません。ですから、故意でないと認められた場合は任意保険の補償対象となります。

他にも、任意保険の加入者がその妻の血縁上の母を事故で怪我させてしまったとします。
この場合も、条件を満たせば任意保険の補償対象となります。なぜなら、加入者と妻の親に血縁関係はなく、親等を考慮すると受け取れるためです。

傷害保険・医療保険は受け取れるか

病気や怪我の際に給付金を受け取れるのが医療保険であり、医療保険に対して「怪我」の際に給付金を受け取れるのが、傷害保険です。
それぞれの保険の詳しい説明は省略しますが、親族間で自動車事故を起こした際、傷害保険と医療保険は適応されるのでしょうか?

結論としては、親族間での自動車事故で傷害保険と医療保険は適応される可能性は低いです。

約款にもよりますが、傷害保険や医療保険の場合は「加害者が親・子・妻や親族である」といったことを問題にしない場合が多いです。
様々な医療・傷害保険に共通しているのは、麻薬の常用者ではないこと、意図的ではないこと、闘争や犯罪によるものではないことです。

しかしながら、傷害保険や医療保険は自動車事故による怪我自体を免責事由にしている保険が少なくありません。
そのため、傷害保険や医療保険の適用は難しいでしょう。

親族間で慰謝料は請求できるのか?

「保険」はもしものときのために皆で積み立てるもので、共同貯金に条件付きでアクセスできる権利を手に入れる行為といっていいでしょう。
そのため保険金は身体的な損害などに支払われるものに対し、慰謝料は精神的に被害に対して支払われるものです。

例えば夫が運転していた車が事故を起こし、同乗していた妻が負傷したとします。このケースで、妻は夫に慰謝料を請求できるのでしょうか?
保険金に限れば妻へ支払われる事例がありますが、これは「離婚せずとも、夫婦間で慰謝料を請求できるか」という問題ですよね。

債権について書かれた民法第709条に、不法行為においては加害者に「故意または過失」があった場合、慰謝料を請求できるとあります。
例えば、婚姻関係にあっても不倫により精神的苦痛を被ったとして、慰謝料を請求したケースは多々あります。しかし、こういったケースを起こすのは別居中のカップルがほとんどです。家計が別のケースです。

過去に事例はありませんが、理論上は親族間の自動車事故であっても、慰謝料の請求は可能ということになります。

まとめ

保険というのは、基本的にややこしいものです。例えば地震で被害を受けて、保険金を受け取ろうとしたら、対象範囲外であることを後に説明されたりします。

任意保険と自賠責保険(強制保険)は、かなり特性が違うことを知りましょう。契約時は、保険の補償範囲、免責事由もじっくり見てください。